内田氏からのメッセージ

プロフィール

内田 康博(うちだやすひろ)

1964年埼玉県秩父市に生まれる
1990年京都大学工学部建築学科卒業(建築史研究室)
1990年–1997年渡辺豊和建築工房勤務
1999年一級建築士事務所 内田康博建築研究所 設立
2003年特定非営利活動法人 京町家再生研究会 幹事
2005年一般社団法人 京町家作事組 理事
2014年京都景観賞 建築部門 奨励賞 受賞(「桜木町の家並」)

テーマは「京町家を新築して旅館にする」こと。

当初は既存の古い京町家を探し、旅館に改修することを考えていましたが、なかなかちょうどよい物件が見つかりませんでした。そうこうするうちに、工場として使われていた古い建物が残る土地が見つかり、思い切って取り壊し、新築することができないか、と考えることになりました。


<楽遊>さんは、あくまでも、伝統の姿を今に受け継ぐ京都の町家で旅館業を営みたい、とのお気持ちで、新築といっても、伝統の姿を踏襲したうえで、必要な機能を組み込むことを希望されていました。京町家の良さを生かした改修であれば、いつもやっていることです。できる限りもともとの伝統の工法に則り、本来の意匠、本来の美しさをさらに磨き上げながら、現代の生活を円滑に営めるように配慮し、現代の設備を挿入しつつ、違和感なく仕上げること。それが日常の仕事です。改修であれば、もともとその建物の持っている魅力を損なわないように配慮することで、それだけで魅力的な空間となります。新築となるとそうはいかず、自由度が高まる分だけ、伝統から離れ、受け継がれた魅力を失ってしまう可能性があります。そこで、京町家の定型を基本とし、計画を進めました。


外観は屋根の庇が道路から見て水平にみえる平入(ひらいり)の総2階建てとし、1階の表は入り口の格子戸の他、平格子(ひらごうし)、仕舞屋格子(しもたやごうし)を使い分けています。2階の表はある程度のプライバシーの配慮のため、平格子としました。


入り口を入るとトオリニワを奥の庭まで通し、土間の空間としています。トオリニワの奥、ハシリニワの上部は吹き抜けとし、火袋を再現しました。視線が水平に広がる和室の空間と対象的に、上に向かって開放的な空間となっています。


建物の裏手には、前栽と呼ばれる小さな庭を設け、室内に風を通し、光を取り入れるだけでなく、植栽や庭石の姿が心を落ち着けてくれます。


客室は畳敷の和室とし、吊床を設け、掛け軸や絵画、花器などの室礼(しつらい)の空間としています。


素材は、ほぼすべて伝統の材料である木、草、土、石、紙、鉄、ガラスのみで構成されています。目で見て、手で触れ、体で感じることで、長い時間をかけて馴染んできた素材感が感じられます。


以上はすべて、京町家の姿を基本とし、伝統に則って計画していますが、それは千年の都の知恵と工夫の結果が総合されたものと考えています。当然、新しい工夫も必要になりますが、伝統の素材や意匠に違和感のないように、近代、現代の素材、設備は極力目立たないように配慮しています。


宿泊される皆様には、受け継がれた伝統の技と知恵、素材と空間を感じていただければ幸いです。



京町家 楽遊 別邸について

このたび、京町家楽遊の別邸の増築が完了しました。


別邸の計画では余裕のある敷地を活かし、庭を主体として計画しました。京都では大店(おおだな:大きな商家)のご隠居さんのお住まいや、高名な画家、文人などが、商売の喧騒から一歩離れてゆったりと暮らす家として、通りに面して高塀をたて、その内側に庭園を設け、庭の奥に居室を設ける暮らし方があります。別邸では、その形を踏襲し、通りに面して塀をたて、静かな庭に囲まれた和の空間としました。


表の庭に面しては天井の高いロビーを設け、椅子に腰かけながら広々した庭を眺めることができます。


また、ひとつひとつの客室には、ぞれぞれの専用庭を設けることで、プライベートの時間をより豊かなものと感じていただけるように配慮しました。


庭に面して縁側を設けていますが、縁側は、日本建築のなかで最も魅力的な空間の一つです。縁側にいると、庇の下で日差しや雨から守られつつ、外の風を感じながら、庭の輝きを間近に眺めることができます。気が向けば庭に降り立ち、空を眺めることもできますし、一休みしようと思えば畳敷の和室でくつろぐこともできます。外と内、明と暗、涼しさと温かさを行き来することで、心も体ものびのびと、ゆったりと過ごしていただけることと思います。


自然と一体となった和の空間を御堪能いただければ幸いです。


(設計担当:内田康博)

楽遊堀川五条の

意匠

京町家 楽遊 堀川五条は、大正から昭和初期にかけて多く見られた京町家建築をできるだけ忠実に再現しています。「格子窓」「ばったり床机」「犬矢来」「火袋」など、京町家ならではの意匠が随所に施され、建物だけでも見どころがたくさん。別邸ロビーに面した日本庭園は、明治・大正時代の町家の庭をイメージして造園されました。

楽遊堀川五条の

館内設備

京町家 楽遊 堀川五条の入り口にかかるのは、染のオーダー専門店『四季彩』さんにお願いした暖簾です。暖簾をくぐってロビーやお部屋に入ると、伝統の「京版画」や創業90年の座布団店『洛中高岡屋』にあつらえていただいた京座布団が建物を彩ります。館内を柔らかい灯りで照らすのは、祇園で100年あまり灯りを作り続けている『三浦照明』さんの行灯やお部屋の照明です。ご滞在いただくだけでさまざまな京都の伝統や工芸に触れていただけるよう、内装にもこだわりました。同時に快適にお過ごしいただけるよう、全室エアコンも完備。ロビーと1階のお部屋には床暖房も設置して、冬もぬくぬくです。

楽遊堀川五条の

お部屋

京町家 楽遊 堀川五条には本館・別邸合わせて11のお部屋があります。その内4部屋は2020年4月にオープンしました別邸のお部屋となっております。詳しくは下のリンクから御覧ください。